私の師匠は写真を撮ることが趣味でした。
どこに行くときも、いかにも高そうなカメラをカバンに入れていました。
昔から好きだったそうですが、取材に行くと必ずその土地の記録を残していました。
一度だけ、師匠に連れて行ってもらった有名な洋食屋で、あまりにも美味しそうなハンバーグが出てきたので、思わず写真を撮ろうと私が携帯を出したことがあります。
すると、師匠が言いました。
「撮るの?」
「はい、一枚だけ失礼します」
「このハンバーグを描写してごらん」
「はい…」
こうした師匠の突発的な指導は定期的にあったのですが、私はその時ハンバーグを上手く描写することが出来ず、かなり落ち込んだことしか覚えていません。
私は師匠から「このハンバーグを全く同じように頭の中で思い浮かべる描写力」の指導を受けたわけです。意外と難しいのですよ。目の前の物、風景、人物…。自分の文章力で、同じ光景をイメージさせる。
ぜひチャレンジしてみてください!
もちろん、私は今でも自分の語彙力に絶望することが頻繁にあります。
日々訓練なのです。私の場合は使う言葉が特殊ですけれど。
私の中でこの夜の出来事は「ハンバーグ事変」と記憶され、それ以降は師匠の前で写真を撮ることはありませんでした。もちろん、師匠はバチバチ楽しそうに、いつも何かを撮っておられました。