群馬県棒名山麓に祀られている山王様は「タイコノボー」という変わった名で呼ばれていて、ご婦人方の信仰もあつい。
山王様だから、ご神体はもちろん石で彫られた、高さ五十センチほどの「お猿さん」。それも、小さな女陰がベンガラで赤く塗られた、可愛い雌のお猿さんだ。ただし、股間は腹巻きで隠してあるので、確かめるには、それをまくり上げるしかない。
このタイコノボー、どうしてそんな名称にされたのかは不明のままだが、昔は宿場女郎の信仰があつく、昭和三十一年の売春防止法で色町がなくなるまで高崎の娼婦たちが、よく参拝に来ていたそうだ。おそらく、性病治療や回避の祈願だったのだろう。
昔、子宝に恵まれない若い嫁さんがタイコノボーに願をかけたところ、山王大権現が夢枕に立ち、「三七、二一日間、ひとりで丑の刻参りをせよ、しからば子宝を授けん」というご詫宣があった。そこで、言われたとおりに丑の刻参りをしたところ、めでたく懐妊、出産したという。
もっとも、性神研究家の小板橋靖正氏が土地の老婦人から聞いたところによると、子宝を恵んでくれたタイコノボーの正体は、近所の若い衆だったというオチもついているのだが。
知らぬは亭主ばかりなり、だったようだ。
《参考文献》「棒名山麓の性神風土記」(小板橋靖正著・あさを社刊)