時代劇を見ていると、必ず登場するのが、引き売りや辻売りの蕎麦の屋台。しかも決まって深夜のシーンに登場いたします。店舗を構えた蕎麦屋が店を閉めたあとでないと、商売にならないからです。
夜間営業ゆえに「夜蕎麦」とか「夜泣き蕎麦」などと呼称されるようになったのですが、実はもう一つ呼び名があります。それが「夜鷹蕎麦」。
「夜鷹」といえば、そう、私娼のことです。それも、公娼や岡場所の女たちよりもずっと低級な娼婦たちのことで、巻いたゴザを小脇に辻に立ち、道行く男たちの袖を引いたことから「辻君」「立ち君」などとも呼ばれていました。
では、なんで、屋台の「夜蕎麦」が「夜鷹蕎麦」と呼ばれるようになったのか…?もちろん、夜鷹の出没と同じ時刻に商いをするからというのもあるでしょうが、実はこんな意外な理由もあったのです。
夜鷹たちがよく出没していた、東両国広小路、木挽町などに夜鷹を見物する男たちがどっと出てきたので、彼らを目当てにした蕎麦屋台が並ぶようになった。それらを「夜鷹蕎麦」と呼ぶようになり、のちには「夜蕎麦」の屋台全部が、そう呼ばれるようになったのだそう。
つまり、「夜鷹蕎麦」とは、彼女たちが食べたからではなく、夜鷹見物の男たちが食べたからだったというわけ。
でも、男って酔狂な生き物ですよねぇ。
